機能的動作に対するトレーニング課題

今回は、「機能的動作に対するトレーニング課題」についてです。

各機能的動作の自立度を高めるためには、どのような課題を用いてトレーニングすべきかを考慮する必要性があります。
(※潮見泰蔵 脳卒中患者に対する課題指向型トレーニング p123~141参照)
日常生活で必要とされる「歩行」動作について、教科書の情報を一部参考にさせていただき、まとめていきたいと思います。

歩行条件

平行棒内・屋内・屋外
②歩行補助具の使用
③補装具の使用

この条件はしっかりと考慮する必要があります。
屋内での生活をメインとされている患者様に、靴歩行ばかりでなく靴下・裸足での歩行を行っていく必要があります。T-cane歩行獲得できても、家で伝い歩きをするのであれば、条件を変えて介入する必要がありそうです。
大事なことは
その歩行条件を選択する目的

かと思います。



トレーニング課題


①異なる速度(早く、普通に、ゆっくり)で歩く
②歩行中に急に静止し、また歩き出す
③歩行中に急に呼び止め、その方向に振り返る
④障害物を避ける、跨ぐ、くぐる
⑤急に目の前を人が横切る
⑥柔らかな床材の上を歩く
⑦荷物を片手もしくは肩から提げて歩く
⑧人の住来の激しい場所を歩く
⑨直線状を歩く、ジグザグ(スラローム)歩行
⑩不整地に置かれた砂嚢の上を踏むながら歩く
⑪ボールを蹴りながら歩く、相手とパスしながら歩く
⑫屋外を歩行する(不整地、斜面、坂道、人ごみ)

歩行訓練のトレーニング課題だけでも、これだけ挙げられます。
ちなみに上記以外に個人個人に合わせた必要な課題を提供する必要があります。

私がよく必要だと考える歩行課題として、

「暗い環境の中での歩行」です。

リハビリ室や臨床中での評価は難しい課題ですが、
自宅退院までに介入しておきたい課題かと考えられます。


ADLへの応用例

・インターホンのある場所まで、できるだけ早く椅子から立ち上がり歩きだす
・買い物に行って荷物を持ち帰る
・エスカレーターに乗る、降りる

他にも
「食器を持ちながら歩く」「起き上がった直後に歩く」等、様々なADL動作へ応用があります。


日常の実生活で行われる諸動作を想定し、リハビリ室で実施可能であるのであれば、患者様の自立度向上のため課題を検討していくことがかなり大事であると、改めて感じます。

筋力トレーニングの分類

筋力トレーニングは、
最大筋力法
最大反復法
スピード・筋力法
反動法
の4つに分類される。
(村木征人:専門的筋力トレーニングと実践的応用.体育の科学39:292-299,1989)


最大筋力法


【方法】最大・または最大に近い負荷(90~100MVC)に対して最大努力で筋力トレーニングを行う方法。
【効果】筋肥大をもたらすよりも、主として神経系の適応による筋力の増加と爆発的筋力の顕著な改善(最大筋力を発揮するまでの時間の短縮)が最大筋力の増加をもたらす。
つまり...大脳の覚醒水準を限りなく高め、筋発揮に参加する筋繊維を100%近くまで高める!と言うことである。どんなに筋断面積が大きくても、脳の覚醒が低ければ大きな力を発揮することができないことをイメージすれば、理解しやすい。
【適応】ベッド上臥床による廃用症候群や加齢などによって大脳の覚醒水準が低下している人に対し、活動に参加する運動単位数の増加、発火頻度の増加、運動単位の同期化の増加を目的とする場合に適応となる。


最大反復法


【方法】最大下の負荷(60~70MVC)を用いて筋疲労の限界まで反復するトレーニング方法。セット間の休息を短く(約30秒)にして疲労困憊まで実施する。
【効果】筋肥大による筋力増強が期待できる。しかし、中枢神経系による神経学要因の筋力低下や爆発的筋力の改善への効果は少ない。一般的なボディビル選手が実施している。
【適応】筋萎縮のみが原因で筋力低下が起こっている場合。固有筋力(神経学的要因を主とするもの)の低下が起こっていない場合に適応となる。


スピード・筋力法(動的筋力法)


【方法】比較的軽い負荷(50%MVC)に対して最大努力で弾性的に少数回行う方法。運動と実施条件は競技的な専門種目とできるだけ一致する運動様式のもので行う。
【効果】神経系の要因を改善するとともに、主動筋と拮抗筋による収縮と弛緩の協調性、中枢から末端への運動連鎖など、スピードが出せる動きの習得が可能。
【適応】目的する動作に類似した速度やそれ以上の速度の筋力発揮の機能的改善を目的とする場合に適応となる。


反動(衝撃)法(プライオメトリックス)


【方法】筋の伸張-短縮サイクルsyretch shortening cycle(SSC)のトレーニングとして行われる方法。(SSC:強くかつ速く伸張された筋がその弾性エネルギーと筋内の受容器である筋紡錘の伸張反射作用により、直後に強くかつ速く短縮される機能)
【効果】神経系の要因、生化学的な余剰効果、弾性エネルギーの効果、伸張反射の効果、筋と腱連合体の強化を促進するとともに、ジャンプやフットワークなどに内在する動きを習得し、弾性筋力を高めることが主なねらいになる。
【適応】高強度の負荷がかかるため、アスリートや若年者等、ジャンプやフットワークなどの内在する動きの習得を目的とする場合に適応となる。

他の文献によれば「負荷軽減法」などもあるとのこと。

単に「筋力増強訓練」と一言でまとめられることが多いが、

クライアントに合わせて内容を考える必要があると改めて感じます。

踵接地が必要な理由

なぜ踵接地を作った方がいいのか?

「踵接地」がなぜ必要なのか?なんとなく分かってはいるけど、その必要性について改めて考えてみました。

『踵接地の役割』

理由①ヒールロッカー機能の役割を果たすため

理由②踵接地時に歩行適応におけるエラー抽出が行われるため

理由③踵接地時に大臀筋の筋活動が得られやすくなるため 

 

まずヒールロッカー機能について説明します。

ヒールロッカーとは?

 なぜヒールロッカーが必要か?

まず、歩行中の重心位置の軌跡を確認してみましょう。二足歩行であるヒトは、重心の上下動を繰り返し、位置エネルギーと運動エネルギーを相互に変化させて効率的な歩行を繰り返しています。一般的に歩行中の重心移動を支状面から見た場合、約2cmの振幅で上下動を行っていると言われております。

 

踵接地時は、重心が最高点から一気に最下点まで落下してくることになります。上下動が2cmであるため、2cmの重心落下ということになりますが、この際に身体(骨、関節、内臓、脳)に大きな衝撃がかかります。その衝撃を吸収するため、heel rockerによる踵接地が必要となるのです。

 

なぜ踵接地で衝撃吸収ができるのか?

踵接地時、前脛骨筋・大腿四頭筋ハムストリングス・脊柱起立筋など、この時期に活動するほとんどの筋が遠心性収縮を行い衝撃吸収に動員されると言われています。そのため、踵接地時に生じる衝撃を体重の1.2倍程度まで抑えることができるのです。

 

どうやって回転運動を起こしているのか?

ただ、踵接地時に上記のような筋群が同時に収縮を起こしたら、身体は前方に回転できず、踵接地のたびに一旦動作が静止し効率の悪い歩行になってしまいます。

 ではどのようにして回転運動を起こし身体を前方に移動しているのでしょうか?

そこには「踵の形状」が重要となっています。踵接地は関節面での接地ではないので、踵の形状を使って前方回転を起こしているのです。